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大阪地方裁判所 昭和46年(ワ)2211号 判決

原告

村木武康

被告

中村健

ほか三名

主文

被告らは、各自原告に対し、金一、五三八、二一一円およびこれに対する昭和四六年六月四日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを三分し、その一を原告の負担とし、その二を被告らの負担とする。

この判決は原告勝訴部分に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

(原告)

一  被告らは、各自原告に対し、金二、七九二、一八二円およびこれに対する昭和四六年六月四日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決および仮執行の宣言。

(被告ら)

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

との判決。

第二請求の原因

一  事故

原告は、次の交通事故により傷害を受けた。

(一)  日時 昭和四四年二月一八日午前九時二〇分ごろ

(二)  場所 大坂市都島区都島本通三丁目一〇〇番地先道路上

(三)  加害車 普通貨物自動車(大坂一そ九三二六号)

右運転者 被告宮本

(四)  被害車 普通乗用自動車

右運転者 前田忠彦

右同乗車 原告

(五)  態様 被害車が停止中、加害車が追突した。

二  責任原因

(一)  運行供用者責任

(1) 被告中村は、「池田木材工業株式会社梱包部」なる名称で機械梱包を業とし、加害者をその業務用に使用し、自己のため運行の用に供していた。

(2) 被告池田木材工業株式会社(以下被告池田木材という)は、原木の購入、販売および池田木材工業株式会社梱包部なる名称で機械梱包を業とし、加害車をその業務用に使用し、自己のため運行の用に供していた。

(二)  使用者責任

(1) 被告中村は、自己の機械梱包業のため専属的下請業者の山本繁雄の被用者であつた被告宮本を使用し、被告宮本が被告中村の業務の執行として加害車を運転中本件事故を発生させた。

(2) 被告池田木材は、自己の機械梱包業のため専属的下請業者の山本繁雄の被用者であつた被告宮本を使用し、被告宮本が被告池田木材の業務の執行として加害車を運転中本件事故を発生させた。

(三)  一般不法行為責任

被告宮本は、加害車を運転中前方を注視するべき注意義務を怠つた過失により、本件事故を発生させた。

(四)  債務の承継

被告中村梱包株式会社(以下被告中村梱包という)は、昭和四四年五月一七日、設立され、被告中村がその代表者となつたが、設立後間もなく被告中村、同宮本の原告に対する本件事故による損害賠償債務を重畳的に引受けた。

三  損害

原告は、本件事故により、次の損害を蒙つた。

(一)  治療費 五、三〇〇円

原告は、本件事故により、頸椎むち打ち症、背部打撲傷の傷害を受け、昭和四四年二月一八日、日赤病院で診断を受け、同月一九日から同年三月四日まで水野外科病院に、同日から同年四月一四日まで野川病院にそれぞれ入院し、同年三月二七日から同年八月二〇日まで関西医科大学附属病院眼科に、同年四月四日から同月一四日まで同病院脳神経外科に、同年五月一五日から同月三〇日まで喜馬病院にそれぞれ通院し、同月三一日から同年八月九日まで同病院に入院し、同月一〇日から昭和四五年四月二八日まで同病院に通院して治療を受け、その後ネオ酵素風呂に入浴し療養したが、眼痛、頭重感、耳なり、めまい、吐気、胸部圧迫感、左耳根部痛、頸部痛、両肩痛、しびれ感、倦怠感、腰痛、膝から足にかけてだるく、足背がしびれ、両手のしびれ感、視力減退を生ずるなどの後遺症状が固定した。原告は、ネオ酵素風呂の入浴療養費として五、三〇〇円を要した。

(二)  通院交通費 三五、五二五円

(三)  サングラス代 二、六〇〇円

(四)  休業損害 一、七〇一、六三四円

原告は事故当時被告中村に梱包工として雇用され、一ケ月平均七七、三四七円の収入を得ていたが、本件事故による受傷のため、昭和四四年二月一八日から昭和四五年一二月末日まで休業を余儀なくされ、一ケ月七七、三四七円の割合による二二ケ月分合計一、七〇一、六三四円の収入を失つた。

(五)  後遺障害による逸失利益 一、二九九、七三八円

原告は、後遺障害のため、昭和四六年一月一日から昭和四八年一二月末日まで三年間労働能力が五割減退し、昭科四九年一月一日から昭和五一年一二月末日まで三年間労働能力が二割五分減退するものと考えられるから、原告の後遺障害による逸失利益は一、二九九、七三八円となる。

(六)  慰藉料 二、〇〇〇、〇〇〇円

(七)  弁護士費用 二〇〇、〇〇〇円

(八)  損害の填補 二、四五二、六一五円

原告は、本件事故による自賠保険金一、五〇〇、〇〇〇円、労災保険金五七五、一一五円、被告中村梱包から三七七、五〇〇円合計二、四五二、六一五円の支払を受けた。

四  よつて原告は、被告に対し、前記三(一)ないし(七)の合計金五、二四四、七九七円から前記三(八)の金二、四五二、六一五円を控除した金二、七九二、一八二円およびこれに対する本件訴状送達の日の翌日である昭和四六年六月四日から支払済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

第三被告中村、同池田木材、同中村梱包の答弁

一  請求原因第二一の事実は認める。第二二の事実中(一)(1)の事実のうち被告中村は、「池田木材工業株式会社梱包部」なる名称で機械梱包を業としていたことは認めるが、その余の事実は否認する。(一)(2)の事実のうち被告池田木材は、原木の購入、販売を業としていたことは認めるが、その余の事実は否認する。(二)(1)、(2)の事実のうち被告宮本は山本繁雄の被用者であつたことは認めるが、その余の事実は否認する。(三)の事実は認める。(四)の事実のうち被告中村梱包は、昭和四四年五月一七日、設立され、被告中村がその代表者となつたことは認めるが、その余の事実は否認する。第二三の事実中(一)ないし(三)の事実は不知。(四)の事実のうち原告は、事故当時被告中村に梱包工として雇用され、一ケ月平均七七、三四七円の収入を得ていたが、昭和四四年二月一八日から昭和四五年一二月末日まで休業したことは認めるが、その余の事実は否認する。(五)ないし(七)の事実は否認する。(八)の事実は認める。被告宮本は、山本運送店こと山本繁雄に雇用されていたもので、加害車の保有者は山本繁雄である。

第四被告宮本の答弁

一  請求原因第二一の事実は認める。第二二の事実中(三)の事実は否認する。第二三の事実は否認する。

第五証拠〔略〕

理由

一  事故

請求原因第二一の事実は当事者間に争いがない。

二  責任原因

(一)  被告宮本

〔証拠略〕によれば本件事故現場は東西に通ずる幅一八メートルの道路上で、右道路には中心線があり、その北側および南側ともに三車線に区分されていたこと、被告宮本は、加害車を運転して時速約三〇キロメートルで東から西に向つて、南端の車線を先行する被害車に約五メートルの車間距離を保つて追従していたとき、約四、七メートル前方で被害者が停止したのを認め、急ブレーキをかけたが及ばず、加害車を被害車に追突させ、その衝撃によつて被害車を約六メートル前方に走行させたこと、前田は、被害車を運転して東から西に向つて進行し、交差点の入口の横断歩道の手前で対面信号が赤になつたのを認めて停止した際本件事故が発生したことが認められ、右認定を左右しうべき証拠はない。以上の事実によれば、被告宮本は、加害車を運転中、先行車の停止に即応しうる車間距離と速度を保つて進行するべき注意義務を怠つた過失により、本件事故を発生させたものと認められるから、不法行為者として原告に対し、本件事故による損害を賠償するべき義務がある。

(二)  被告中村

〔証拠略〕を綜合すると、被告中村は、機械梱包を業とし、被告池田木材は、木材の購入、販売を業としていたこと(このことは、原告、被告中村、同池田木材、同中村梱包間に争いがない)、被告中村は、昭和四〇年ごろから被告池田木材と取引を始め、梱包の原料である木材をもつぱら被告池田木材から仕入れるようになつたこと、そして被告中村は、「池田木材工業株式会社梱包部」なる名称で営業をし(このことは原告、被告中村、同池田木材、同中村梱包間に争いがない)、右名称のほかに「池田木材工業大阪梱包部」、「池田木材中村梱包」、「中村梱包」などの名称をも使用して営業をなし、その商品、資材等を山本繁雄に運送させていたこと、山本繁雑は、事故当時加害車およびほかに一台の貨物自動車を所有して免許を受けないで貨物運送の事業を営んでいたものであるが、加害車の車体には「池田木材工業株式会社梱包部」なる名称を表示してこれを被告中村の営業所に保管し、被告中村の右営業のために専属的に使用してその商品、資材の運送に従事し、代金支払は中村または被告池田木材から被告池田木材振出の手形で支払を受けていたこと、被告池田木材は、被告中村が「池田木材工業株式会社梱包部」などの名称を使用して営業することを許していたこと、被告宮本は、山本繁雄の被用者であつた(このことは原告、被告中村、同池田木材、同中村梱包間に争いがない)が、本件事故は被告宮本が加害車に被告中村の指示によりその営業用の資材を積載し、被告中村の使用人をも同乗させて運送する途中に生じたものであること、被告中村梱包は、昭和四四年五月一七日、設立され、被告中村がその代表者となつた(このことは原告、被告中村、同池田木材、同中村梱包間に争いがない)が、被告中村の右機械梱包の営業の譲渡を受け、従前同様の営業を被告中村が個人で営業していた場所を本店として株式会社組織で行つているものであることが認められ、右認定を左右しうべき証拠はない。

以上認定の事実によれば、被告中村は、山本繁雄所有の加害車を自己の営業のために専属的に使用し、その運行を支配し、運行利益を得ていたものであると認められるから加害車の運行供用者として原告に対し、本件事故による損害を賠償するべき義務がある。

(三)  被告池田木材

前記二(三)の事実によれば、被告池田木材は、被告中村と取引上および資金関係上密接な関係をもち、被告中村に「池田木材工業株式会社梱包部」なる名称の使用を許し、被告中村が専属的にその商品運送に使用していた加害車の車体にも右の名称を表示させていたもので、被告中村と共同して加害車の運行を支配し、その運行利益を得ていたものと認められるから、加害車の運行供用者として原告に対し本件事故による損害を賠償するべき義務がある。

(四)  被告中村梱包

前記二(二)の事実によれば、被告中村梱包は、被告中村個人が営業してきた機械梱包業を株式会社組織に改めたものにすぎず、被告中村からその営業の譲渡を受けたものであること、被告中村は、「池田木材中村梱包」とか「中村梱包」の商号をも使用して右営業をなしていたが、本件事故後「中村梱包株式会社」なる商号の会社が設立されたものであることが認められる。従つて被告中村梱包は、被告中村からその営業を譲受け、被告中村の商号を続用しているものというべく、被告中村の原告に対する自賠法第三条にもとづく損害賠償債務は被告中村の営業によつて生じた債務であるから、被告中村梱包は、商法第二六条第一項により、原告に対し、被告中村の本件事故による損害賠償債務について弁済の責に任ずるべきものというべきである。

三  損害

(一)  治療費 五、三〇〇円

〔証拠略〕を綜合すると、原告は、本件事故により、頸椎捻挫、背部挫傷、腰椎捻挫の傷害を受け、昭和四四年二月一八日、大阪赤十字病院で診断を受け、同月一九日から同年三月四日まで水野外科病院に、同日から同年四月一四日まで野川病院にそれぞれ入院し、右入院中の同年三月二七日から関西医科大学附属病院眼科に、同年四月四日から同月一四日までに五日同病院脳神経外科にそれぞれ通院し、同年五月一五日から同月三〇日まで喜馬病院に通院し、同月三一日から同年八月九日まで同病院に入院し、同月一〇日から昭和四五年四月二八日まで同病院に通院して治療を受け、その後ネオ酵素風呂にも入浴して治療したが、椎骨動脈撮影で左椎骨動脈が著しく狭少となつていることが認められ、これに基因する頸髄その他自律神経系統の機能不全のため、頭痛、頭重感、耳なり、乗物に乗つたり物をもつた際のめまい、吐気および胸部圧迫感、左耳根部痛、頸部痛、両肩痛、しびれ感、倦怠感、腰痛、腰から足にかけてだるく、足背のしびれ、両手のしびれ感があり、視力も事故前一・二ないし一・五であつたのが両眼とも〇・〇三となり、矯正しても〇・一にしかならないなどの後遺症状が固定したこと、原告は、ネオ酵素風呂の入浴料として五、三〇〇円を要したことが認められる。

(二)  通院交通費 三〇、一二〇円

〔証拠略〕によれば、原告は、通院のためのタクシー代および入院中の原告の妻の病院への付添のためのタクシー代として合計三〇、一二〇円を要したことが認められる。

(三)  サングラス代 二、六〇〇円

〔証拠略〕によれば、原告は、本件事故後目がまぶしく感ずるようになり、医師の指示によつてサングラスをかける必要が生じ、サングラス代として二、六〇〇円を要したことが認められる。

(四)  休業損害 一、一二一、六三三円

〔証拠略〕を綜合すると、原告は、事故当時三四才であつたこと、原告は、事故当時被告中村に梱包工として雇用され(このことは原告、被告中村、同池田木材、同中村梱包間に争いがない)、昭和四三年一一月から昭和四四年一月までの三ケ月間に二三二、〇六二円、一ケ月平均七七、三五四円の給料を得ていたが、本件事故による受傷のため、昭和四四年二月一八日から同年四月末ごろまで休業を余儀なくされ、そのころ治療を打切り、その後同年九月から被告中村梱包に復職したが、後遺症のため休みをとることが多く、同月は一一、五日、同年一〇月は、一七日同年一一月は三・五日勤務し、同年九月分として二八、七九〇円、同年一〇月分として四二、五〇〇円、同年一一月分として八、七五〇円の収入を得ただけで退職し、同月から友人の世話で山口組に臨時雇として日給四、〇〇〇円で梱包工として働き、当初は一ケ月に半分位しか働けなかつたが、次第に回復し、昭和四七年六月一五日当時には月に二〇日位働いて月収八〇、〇〇〇円位を得られるようになつたことが認められ、右認定を左右しうべき証拠はない。以上の事実に前記三(一)の原告の傷害の部位、程度および治療の経過および期間を合わせ考えると、原告は、昭和四四年二月一八日から昭和四五年四月末ごろの症状固定時まで一四、五ケ月間労働能力を全く失つたものと認められるから、原告の休業損害は一ケ月七七、三五四円の割合による一四、五ケ月分合計一、一二一、六三三円となる。

(五)  後遺障害による逸失利益 六九一、一七三円

前記三(一)の原告の後遺障害の内容、程度、前記三(四)の原告の年令、職業、事故前後の収入、就労状況を合わせ考えると、原告は、右後遺障害のため、昭和四五年五月始めごろから二年間は労働能力が四割減退したものと認められるから、原告の将来の逸失利益を、月収七七、三五四円として年毎のホフマン式により年五分の割合による中間利息を控除して算定すると別紙計算書(1)記載のとおり六九一、一七三円(円未満切捨)となる。

(六)  慰藉料 二、〇〇〇、〇〇〇円

前記三(一)の原告の傷害の部位、程度、治療の経過および期間、後遺障害の内容、程度を合わせ考えると、原告が本件事故によつて蒙つた精神的損害に対する慰藉料額は二、〇〇〇、〇〇〇円とするのが相当であると認められる。

(七)  弁護士費用 一四〇、〇〇〇円

本件事案の性質、審理の経過および認容額に照らし、原告が被告らに対して本件事故による損害として賠償を求めうるべき弁護士費用額は一四〇、〇〇〇円とするのが相当であると認められる。

(八)  損害の填補 二、四五二、六一五円

原告は、本件事故による自賠保険金一、五〇〇、〇〇〇円、労災保険金五七五、一一五円、被告中村梱包から三七七、五〇〇円合計二、四五二、六一五円の支払を受けたことは原告の自認するところである(原告、被告中村、同池田木材、同中村梱包間では争いがない)。

四  従つて原告は、被告ら各自に対し、前記三(一)ないし(七)の合計金三、九九〇、八二六円から前記三(八)の金二、四五二、六一五円を控除した金一、五三八、二一一円およびこれに対する本件訴状送達の日の翌日であることが本件記録上明らかな昭和四六年六月四日から支払済まで年五分の割合による遅延損害金の支払を求めうるものであるが、原告のその余の請求は理由がない。

よつて原告の請求は主文第一項掲記の限度でこれを認容しその余の請求を棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九二条、第九三条第一項本文、仮執行の宣言につき同法第一九六条第一項をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 山本矩夫)

計算書

(1) 後遺障害による逸失利益

77354×12×0.4×1.8615=691173

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